インスリンを打ち続けると、自分のインスリンが出なくなるのですか?という質問をよく受けます。
今回は、この質問についてお答えしたいと思います。
お話:右田 巳賀先生
新しい細胞を作ることができない臓器「すい臓」
人間の臓器のうち、「すい臓」と「腎臓」は、新しい細胞が作られることはありません。
肝臓などは一部を切って臓器提供したとしても、残りの肝臓が大きくなって再生ことができるのですが、すい臓には残念ながらその機能がありません。
元々の工場の人員が決まっている訳ですので、それを酷使すると、すい臓のβ(ベータ)細胞で作られるインスリンというホルモンが出にくくなります。
特に、「糖尿病ですよ」といわれた場合は、工場の働く人数は、大体、半分くらいになっていると思っていただくとよいと思います。
ちょっと工場が古くなってきて、それを半分の人員でフル回転するわけですから、よりくたびれますよね?
それでなくても、段々、年を重ねると血糖値は上がりやすくなるのですが、そこを少ない人員で仕事するわけですから、疲れやすくなり、余計にインスリンが出にくくなります。
そういう時に、インスリンを打つとどうなるか?ということなのですが、工場は、いったん休むんです、ちょっとお休みするんですね。
休んでいる間に、ちょっと元気になるわけです。
高血糖がさらなる高血糖を呼ぶ悪循環「糖毒性」
『糖毒性』という大事な考え方があります。
血糖が高いと、余計にインスリンが出にくくなり、血糖が高い状態が続くと、インスリンが効きにくくなることを表します。
実際、わたしがクリニックで経験したことなのですが、ある70代の女性で一気に血糖が上がった方がいらっしゃいました。
はっきりとした原因はわからず、「なんか体調が悪いよね。」といわれていたら、1ヶ月くらいで通常の3倍くらいの血糖値になっていました。
その時に、インスリンの出方の検査をしました。
インスリンの出方を見る検査は、色々あるのですが、みなさん、聞いたことがあるのが「ブドウ糖負荷試験」だと思います。
容器に入ったブドウ糖(ものすごく甘いジュースのような感じです)を一気に飲んで、飲む前と飲んだ後の血糖値の変化やインスリンの分泌をみる検査です。
但し、この検査は、自覚症状などから明らかな高血糖が考えられる患者さんには、さらに高血糖を引き起こすリスクがあるため行ないません。
うちのクリニックでは、「グルカゴン負荷試験」を行なっています。
「グルカゴン」という物質は、膵臓のα細胞から分泌されているホルモンで、肝臓のグリコーゲンを分解して血糖値を上昇させたり、すい臓のβ細胞を直接刺激してインスリン分泌を促します。
「グルカゴン負荷試験」は、そのグルカゴンを注射して、その後の血糖値や血中インスリン濃度から、すい臓のインスリン分泌能力を調べます。
既に、注射で外部からインスリンを摂取している方でも、この検査をすることにより、ご自身のインスリンを分泌する能力を知ることができます。
早期のインスリン治療が、カギになります。
先ほどの女性の患者さんに、この「「グルカゴン負荷試験」をしたところ本当にインスリンが分泌されていませんでした。
そこで、患者さんに、「インスリンが出ていない状態です。
インスリン投与をして治療をしましょう。」とお話をさせていただいて、治療を開始しました。
治療を開始してから、段々、血糖値のコントロールが良くなってきました。
20単位だったインスリン投与量が、ある時期から、8単位、6単位と減っていきました。
そこで、再度、「グルカゴン負荷試験」をしました。
すると、明らかに、インスリンの分泌が良くなっていたのです。
一旦、血糖値を改善させることで、その方のインスリンの分泌する力が回復したのです。
昔は、薬の種類が少なかったんです。それで、インスリンと打つとなると、いよいよ、ほかに手がない場合が多かったのです。
しかし、現在では、すい臓を休ませて「糖毒性」を解除しインスリン分泌を復活させるために、なるべく早い段階でインスリンを投与するというように変わってきています。